大阪の廃村を目指して(前編) 和泉山脈の林道で足を取られまくる
【廃村】(はいそん)
何らかの理由により住人が退去して無人となり、居住していたことを示す建物や痕跡のみが残されている場所のこと。産業による環境破壊や衰退、戦争や自然災害での退去によって、一度形成された都市や集落が廃墟化したものである。(wikipedia:「ゴーストタウン」より)
僕は大阪府に住んでいる。
人口884万人、日本で3位。
現在でも人口が増加している、大都会大阪府に、人の姿が消えて、誰も住まなくなった村があるとは思わなかった。
実は大阪府、府境を山で囲まれている。
山に近いあたりには、どこの田舎にもありそうな、町*1や村*2もあるのだ。
そうした町村では、だいたい人口が減少している。
中でも最北端にある能勢町は、人口減少率9.60%と、激しい。*3
そんな大都市化の中で取り残され、不便さと高齢化で限界集落化し、人が抜けてしまった村が、大阪府でもとうとう出てきた。
大阪府と和歌山県の境目、和泉山脈の奥にある「今畑(いまはた)」という集落である。
人が住まなくなった限界集落とは、廃村とは?
その姿を求めて、バイクで行く。
神通温泉(大阪・和歌山県境)→B:今畑集落(?)→C:梵天山展望台→E:串柿の里・神野→F、G:謎の林道→河内長野
★こんな深い森の中に集落が?
5月、午後12時くらい。
大阪府泉佐野市、和歌山との県境へのアクセスには、そう時間はかからない。(高速だと大阪市から1時間程度)
県境の峠のわき道から、廃村「今畑」に続く細い道を行く。
既に車がすれ違えるかどうか怪しい道路だ。
そんな山深い道の途中にも、集落はある。「中畑」というらしい。
見るからに生活感のある村の風景だ。
人の姿もあるし、車も時々すれ違う。
しかし、その人里もすぐに終わって、まもなく細い獣道に出る。
今までのちゃんと舗装され、手入れされていた道路が、ウソみたいに荒れまくる。
辛うじて軽トラが通れるくらいだ。
木々へのライトの当たり具合でもお分かりの通り、
昼間でも暗い鬱蒼とした森林の中を、道が続く。
いや、道というより「跡」としか表現できない。
簡易コンクリート舗装された路面には、落ち葉が積もり放題になっており、時々泥がたまって、雨の後は深いぬかるみとなって、バイクを転倒させようとする。
そして、時折ガードレールがないので、転倒させ、谷へ転落というコンボが待ち受けているように思えた。
森は手入れが行き届いていないのか、木が倒れかけ、安全を脅かしていた。
飛ばさないように、足元を確かめるように、慎重に歩を進めていた。
そして、今畑廃村の手がかりになりそうなものをサーチしながら、進む。
これか!?
小屋1軒分はありそうな広さの、開けた場所がある。
もしやここに家があったのか?
そこには何もなく、倒れた木が散乱しているだけだった。
あまりわかりにくいが、電線が通っていて、開けた場所に入るなと警告するばかりに、垂れ下がっていた。
危ない!
しばらく進むが、まだ集落は見つからない。
森はより一層暗く、傾斜がきつくなる。
コンクリート路面を葉が埋め尽くし、もはや道なのかわからない。
その上をバイクは進んでいかなくてはならない。
スピードを出しすぎたら、転倒する。
2013年に書かれたとあるブログに、今畑を訪れたときのことが書かれていた。
建物は2軒ほどしかなく、いずれも道から外れ、見つけにくい場所にあり、建物は相当な崩落具合で、下から生えてくる竹に侵食され、自然に還りつつあったという。
2013年時点で、この道の脇は、石垣になっていたという。
石が崩れ、辛うじて石垣だった痕跡がわかるくらいだった。
石垣の上には得てして、家が建っているものだ。
それが現在、石垣すらもわからない、まして家すら見つからない。
あるのは垂れ下がった電線と、道の端っこにあった「シマミミズ養殖場 食と農業の革新」という折れ曲がった看板くらいだった。
今畑廃村は、自然に還って、消えてしまったのか。
探索をあきらめて、先に進むことにした。
★深い和泉山脈と、関西空港のパノラマ
深い森を抜けると、開けた場所に出てくる。
途中、和歌山方面の下り道と、和泉山脈の尾根を走る道に分かれたY字路が現れた。
「地名 馬別れ」と、筆で書かれた看板が、怪しい。
尾根方面には展望台がある。
ジャリの坂道を登っていくと、展望台に着いた。
「梵天山」というそうだ。
関西のオフロードバイク乗りには有名なところらしい。
途中、ドコモの携帯基地局が建てられていた。
2階建ての窓が少ないビルに、まっすぐなアンテナが建ち、周囲をネットフェンスで囲まれていた。
こんな山奥で、不便で、限界集落とか言っているのに、便利のシンボルともいえるケータイの基地局があるギャップが、感覚をおかしくさせる。
携帯ならあっさり圏外の中に、一点だけハイテクがあるのだ。
展望台には、バイク乗りが3人やってきていた。
いずれも僕より年上の40~60代男性。
オフロードバイクに乗り、週末は林道を走り回っているような人たちだった。
仲間内らしく、軽い会話くらいしかできなかった。
展望台から、西の大阪湾(阪南市方面)を見る。
ここは山の奥。
大阪府だというのに、こんなにも遠くまで大森林が広がっているとは思わなかった。
山を越えて、関西国際空港方面を見ると、海と町がくっきり見えた。
関西空港の人工島、空港へ向かう道路橋、そして、高さ256mの、りんくうゲートタワービル*4が、目立って見えた。
手前の山は、波のように、丘がうねっては沈み込むような地形になっている。
なんだか生命力を感じる。
山の中の一角に、お寺のような大屋根がポツリと見えた。
修行の道場か、小さな集落のお寺か。
大自然の一部に人間がいて、自然のサイクルに組み込まれているような感覚さえ覚えた。
山に登ったら、和歌山市方面に向かって降りる。
降りる道も、細く、ろくに整備されていない危険な道だった。
ジャリの坂道はとても危険だ。
登りはいい。スピードが出過ぎないし、こけてもダメージは少ない。
しかし、下りはブレーキをちょっとでも掛け間違って、一瞬でもスピードが出すぎてしまうと、転倒や衝突、転落のリスクが高まる。
だからこそブレーキをいっぱい握り、アクセルをほとんど入れず、歩いて降りるようなスピードに落として、慎重に慎重に降りていく。
下りで最も緊張し、生きた心地のしない時間だ。
そんな風にして、和歌山県側(岩出市)の道に降り、帰りも和泉山脈をさまようのだった。
後編に続く。