少ない味の豊かさ ~とあるレーズンパイを食べて~
友達と遊んでいるとき、自然食品の店に行って、「ガリバルジー」というレーズンパイを買って食べました。*1
これは普通のスーパーではなかなかお目にかかれないシロモノです。
そして、自然食品、香料・合成着色料無添加、一つ一つ手作り、国内産小麦粉使用ということで、値段もそれなりにします。*2
しかし、この「ガリバルジー」は、普段感じている「味」について考えさせてくれました。
★サクサクのパイ生地にレーズン少しだけ
四角形のパイが重なった形。
間にレーズンが4,5個挟まっただけの、シンプルなお菓子です。
生地はパサパサで、一緒に飲むものがないと、口の水分を全て持って行かれそうなくらいです。
下に皿を敷いておかないと、こぼれたパイでボロボロになってしまうくらいの崩れやすさで、子供がきれいに食べるのは、至難です。
パイの実やオールレーズンのような、唾液の分泌量が少ない日本人好みの、しっとりサクサクのパイ菓子とは違って、好き嫌いは別れるかもしれません。
しかし、これはおいしい。
パイ生地自体には味がほとんどなく、以前あったヤマザキナビスコの「プレミアムクラッカー」を、さらに軽い味にしたようなものでした。
ですが、これが良かったのです。
パイ生地に味がない分、レーズンの味がとても際立ちます。
甘さを抑えたレーズンが、生地の中で浸みてきます。
そして、口に含み続けると、じわりとささやかな甘みが広がってきます。
最後に、口の中に何も残らなくなった後、レーズンの甘い味も消えていきます。
そこに僕は、「少ない味の豊かさ」を見たのです。
★今の菓子は、明らかに甘すぎる
翻って、現代のスナック菓子を見てみましょう。
例えばクッキー。
生地には甘い甘い味がついており、その上、チョコチップなりレーズンなりのトッピングがされ、甘さが上乗せされています。
もちろん、当たり前のように、合成甘味料や合成着色料、香料などの添加物が入り、見るからに美味しそうに、食べたそうな見た目をしています。
嫌いじゃないです。どちらかといえば好きです。
でも、甘すぎるんです。
表面も生地もトッピングも、どこから食べても甘い。
そして、食べた後も甘いのです。
合成甘味料などの添加物で、クッキーを食べ終わっても、お茶等で舌を流し終わっても、舌に甘い味がまとわりつくのです。
甘ったるい口臭が口の中に残ったままになって、自分でも気持ち悪いな、と思うことがあります。*3
そうしたスナック菓子を食べると、口の中が甘ったるくなり、歯みがきをやり直さないと口臭が消えなくなるので、かえって美味しくないと感じるときがあります。
「受動的に甘さをむさぼる味」のようです。
そんな中で、生地も甘くない、レーズンもそんなに甘くない、添加物の甘みがない、「ガリバルジー」レーズンパイは、「甘さを感じに行く楽しさや発見に気づかせてくれる味」に感じました。
人は、物があふれて、有るのが当たり前になると、喜びを感じにくくなるけど、
物がないときに、少ないけれど物があると、喜びを感じられるようにできているのでしょう。
物が多いことが必ずしも豊かとはいえません。
少ないことが、かえって豊かなのだと思います。
「Less is more」なのです。*4
それにしても、この「ガリバルジー」、
途中、アイスコーヒーをテイクアウトして一緒に食べたんですが、このパサパサとコーヒーの渋味が、絶妙に合います。
あと、「ガリバルジー」というネーミングが謎です。
イギリスで150年前から食べられている「ガリバルディ・ビスケット」から来ているのですが、ガリバルディといえば、150年前に、イタリア統一に尽力した革命家、ジュゼッペ・ガリバルディに由来します。イギリスのお菓子なのに、なぜかイタリア人の名前が使われています。
謎も含めて、考えさせるこの味。どこかで遭遇できたらラッキーですね。
*1:三育フーズのお菓子。イギリスで150年前から食べられている「ガリバルディ・ビスケット」に由来する。
*2:10ピースで570円(税抜)
*3:キャンディーを食べた後も、かなり甘ったるい後味が残ります。
*4:20世紀のモダニズムを代表するドイツの建築家、ミース・ファン・デル・ローエが提唱した標語。「より少ないことは、より豊かなこと」という意味通り、ローエは現代のオフィスビルに通じるような、シンプルな建築物を設計してきた。