流れて消えるだけじゃ、語り合えないから

この人いいな、という人は、前向きでも後向きでもなく、ただ中間の状態でその場を動いているだけ。

すごい日本奥地紀行【南信州編】 第6回 しらびそ峠→分杭峠

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【第6回】

大阪→→(岐阜県)馬籠宿→(長野県)妻籠宿→ 大平峠→遠山郷下栗の里

しらびそ峠→大鹿村→分杭峠(2泊目)諏訪大社奈良井宿御嶽神社

開田高原→(岐阜県)御嶽スカイライン喫茶・五重塔下呂温泉(3泊目)

→ 関善光寺→岐阜大仏→長良川沿いに続く道→→大阪

 

「日本のチロル」こと、下栗の里から、さらに高度を上げて山道を進む、どんどん北上し、諏訪を目指すのだった。

 

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しらびそ

下栗の里から、さらに山道を走り、「しらびそ」を目指す。

曲がりくねった細い山道。

下栗出発時は1100mだった高度も、徐々に上がり、最高地点では1900mを越えていた。

 

写真を見ての通り、雲が出て、不穏な天気になってきた。

道のところどころから、霧が発生している。

わずかな小雨も降りだし、Tシャツ1枚では対応できない寒さになってきた。

 

信州の夏は暑い。しかし、それは谷底での話で、山の上となると、話が違う。

 

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ますます不穏な空気になっていく。

山道では、クマの目撃例が、7,8件は現れている。

 

道の途中の原っぱで、南アルプスの山並みを眺めようと思ったが、

その間にクマに襲撃されたら…と思うと、休む心の余裕がなかった。

早く峠についてくれと思った。

 

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下栗から40分ほどで、しらびそ峠に着いた。

頂上は1900mの高地。洋風のロッジがあり、日帰り温泉が楽しめるという。

疲れたのと寒かったこともあり、僕はしばらく、ロッジのソファでへばりこんでいた。

 

しらびそ峠からは、東に南アルプスと西に伊那山地の山並みが一望できる。

まず、写真は南アルプス

天候が悪く、雲がかかっていたので、山稜の形しか見えなかった。

 

雲が無ければ、遠くに、聖岳赤石岳などの3000m級の山脈が見えていただろう。

 

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続いて、反対側(西)の伊那山地。遠山郷伊那谷を分ける山々だ。

午前中は、この山を越えて、遠山郷に入ってきた。

 

西側は午後の西日になっていたので、山の形がくっきりしていた。

 

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午後4時30分ごろ。

山の中で日が暮れてはまずい、日暮れまでに宿に着かねば…と焦りが見える中、

しらびそ峠を下山し、国道152号線を北上して、宿泊地の長谷村へ向かった。

 

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遠山郷の主要道路は、国道152号(秋葉街道)だ。

しかし、国道と言いながら、途中途中で途切れていたり、

こんな感じの狭い、曲がりくねった、スピードの出しにくい、山道が続いていて

思ったように前に進めないのだ。

 

現在は、バイパス道路が各地で出来て、直線トンネルや高架道路で、こんなグネグネした山道をすっ飛ばせるようになった。

 

山道をジリジリ登って、峠にさしかかって、グネグネ曲がりながら降りていく。

これが山越えの醍醐味なのだ。

 

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大鹿村騒動記

 

30キロほど走って、午後5時。

途中の「大鹿村」(おおしかむら)という、ふもとの農村に立ち寄る。

 

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映画好きには知られているかもしれないけれど、

この大鹿村は、俳優・原田芳雄の遺作となった映画『大鹿村騒動記』の舞台となった場所だ。

 

大鹿歌舞伎という、地元に大昔から伝わる歌舞伎にまつわる話で、

この店「ディアイーター」は、映画のセットとして使われ*1、映画撮影後も残され、現在は飲食店として営業し、鹿肉カレーなどのジビエ料理が提供されている。

 

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それにしても、村のどこからでも見えるのが、山が巨大な地滑りで崩落した跡だ。

 

あまりにも痛々しい傷跡は、昭和36年の梅雨前線豪雨で、山が崩壊し、大量の土砂が対岸の集落を飲みこみ、村を飲みこみ、42名の死者を出した、大災害の跡だという。

 

最近の台風で地滑りが起きたから、10年で復旧できるだろう、と思って見ていたが、

そうしようにもとんでもない歳月がかかるし、それ以前に元に戻らないかもしれないから、こうしてずっと大鹿村の風景として、インパクトを与えてきたようにも見える。

 

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★ゼロ磁場?分杭峠

大鹿村から、山を越えて、「分杭峠(ぶんくいとうげ)」を目指す。

この峠を越えれば、宿はもうすぐだ。

薄暗くなる山道を足早に超えようとする。しかし、狭く曲がった道が、行く手を阻む。

 

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そうして道を通っていると、途中、「分杭峠行き シャトルバス発着場」「分杭峠気場(ゼロ磁場)へはシャトルバスをご利用ください」などと書かれている。

 

ここ分杭峠は、磁石がどこもささないでクルクル回る「ゼロ磁場」になるので、あちこちのテレビで採りあげられたという。そのパワースポットに知らない人が殺到するのを防ぐため、駐車場に車を停めて、シャトルバスで移動してもらうようになったという。

 

しかし、「ゼロ磁場」というのがやたら踊っているのがおかしい。

 

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やっぱり怪しい。

 

零磁場ミネラル株式会社」と書いたプレハブ工場があって、「ゼロ磁場の秘水」を生産しているのだ。

しかも、この工場内に、「ゼロ磁場 第3の氣場」を作っていたり、やたらとパワースポットをアピールしていて、さらに怪しい。

 

商業主義とパワースポットが組み合わさると、こんなに怪しくなるのか。

 

近くには、「ゼロ磁場丼」というのを出している店まであって、明らかに便乗っぽくて噴いてしまった。

 

残念ながら、分杭峠のパワースポットは閉鎖されていた。

時間は午後6時を回っていた。

うわさとは違って、人っこ一人いない、閑散とした夕暮れの峠があるだけだった。

 

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★平家の里

その「ゼロ磁場丼」を出している店が、2日目の宿&夕食だった。

のれんには、「美女とイケメンとヘンタイが集う!オトナの社交場」と書かれていた。

突っ込みどころが満載すぎた。

 

まずは夕食、ここの名物はホルモンと山肉だ。

 

・豚肉の湯びき

・センマイ

・鹿肉のロース

・自家製キムチ

 

といった2300円にしては、なかなかお得な焼肉セットをいただいた。

 

鹿肉のロースは、あっさりして柔らかくて食べやすかった。ご飯が進む。

他のホルモンも、なかなか歯ごたえがあって、美味だった。

 

ちなみに名前の「平家の里」は、分杭峠のすぐ北側の地域に、源平の戦いで負けて落ち延びてきた平家の残党が、隠れ住んでいたという言い伝えが残っている地域に由来するという。山奥と平家の落人伝説は、相性が良い話だ。

 

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「平家の里」の2階と屋根裏部屋は、宿泊スペースになっている。

屋根裏部屋はこんな感じのプレハブ小屋みたいになっていた。

 

宿泊費は1500円。激安だ。*2

しかし、その値段相応の不便さはたくさんあった。

 

太陽の熱を溜め込んでいるのか、2階と違ってウソみたいに熱い

熱を逃がす手段は、南と北に開いた窓と、大きな音を立てる工場用扇風機くらいだった。

 

しかも寝具はない。たくさんある座布団を敷き詰めて、簡単なマットレスを作るのがやっとだった。

寝袋を持参するライダー向けだろう。

 

さらに、風呂やシャワーがないので、入浴には、宿からバイクで1分走ったところにある日帰り温泉を利用する必要がある。

僕は、夕飯を食べ終わって、日帰り温泉に行ったのだけど、

着いたのが、閉館15分前だったので受付が既に終わっていた。

 

フロントの人に、「9時には出ますからぁ!」と泣きながらお願いして、なんとか入浴させていただいた。助かった。

 

この宿は、1500円と格安だが、その値段なら贅沢は言えない。

4、5000円も出してビジネスホテルに泊まるよりは、僕は断然1500円を選ぶ。

 

★旅の価値観が違う人との出会い

 平家の里で、一緒に屋根裏部屋に泊まった人がいた。

 

その人は、関西からツーリングに来ている人で

バイクに乗っているだけで楽しい。他の観光やグルメや温泉は全然興味がない。」という人だった。

 

なかなか話が弾まなかった。

観光やグルメの話を振っても、食いつきが悪い。

しかし、バイクに乗ってどこを通ったかとか、今までどんなバイクに乗って来たか、とか、仕事とライフスタイルとバイクの話は、少しずつしてくれた。

 

こんなにも、旅に対する価値観が違う人がいるんだな、と、今までに出会ってきた誰よりもカルチャーショックだったように思う。

 旅のあらゆることを楽しんでいるわけではない。

バイクに乗ることそのものを楽しんでいる人なのだ。

 

だから、いつもは仕事の終わり(朝)にバイクに乗って、関西の道をただ走って日帰りするという。

バイクに乗ることそのものが楽しいらしいのだ。

 

僕とは分かり合えないだろう。*3

けれど、まるで違う人種のように、価値観が違う人がいるということを旅先で知るのは、これも一つの出会いなのだ。

 

 

夜中1時。全てが寝静まって、

蒸し暑いと言っていた、屋根裏部屋も、涼しくなってきた。

全てが静寂に包まれている。

扇風機を止めて、再び寝た。

 

翌日は朝5時起きて、朝食を食べずにすぐ出発。

朝早くから日が暮れるまで、バイクに明け暮れる一日がまた来る。

*1:主人公・原田芳雄の店という設定だった

*2:2階は個室になっていて、3000円でクーラー付きの部屋がある。

*3:僕もそこまでバイク好きではない。旅が好きなんだ。